明治
明治32年、鹿児島にもいよいよ鉄道の開通が間近に迫り、町の空気が少しずつ新しい時代へ向かって動き出していた頃――徳永市郎は鹿児島市西千石町にて、職人気質を貫く小さなかまぼこ店を開きました。派手さはなくとも、手仕事の確かさと真面目さを大切にし、一本一本に心を込めるような商いの始まりだったといえます。
しかしその年は、希望に満ちた節目の一方で、自然の猛威が人々の暮らしを揺さぶった年でもありました。大型台風が上陸し、県下ではおよそ一万六千戸もの家屋が倒壊するという甚大な被害が記録されました。そんな激動の時代の入口で、日々の食を支える商いが静かに産声を上げたのです。

大正
大正11年4月、徳永誠一が先代より家業を正式に受け継ぎ、商いの舵取りを担うことになりました。時代の移り変わりとともに、お客様の暮らしや食の好みも少しずつ変化していくなか、誠一は伝統を守りながらも、より良い品づくりと店の基盤づくりに力を注いでいきます。
そして戦後の復興が進み、社会の仕組みも大きく整えられていった昭和24年7月、事業のさらなる発展と安定を見据えて「有限会社 徳永屋本店」を設立。組織としての体制を整え、信頼を積み重ねる一歩を踏み出しました。同時に、徳永誠一は代表取締役に就任し、徳永屋本店の新たな時代を切り開く中心人物として、経営の前面に立つこととなります。

昭和
昭和47年6月、徳永屋本店は組織体制をあらため、「株式会社 徳永屋本店」として新たな一歩を踏み出しました。伝統を守りながらも、より確かな品質管理と事業の発展を見据え、次の時代へ向けた基盤づくりが本格化していった節目の年でした。
続く昭和49年9月には、南栄町に新工場が完成。製造環境を整え、衛生面や生産体制の強化を図ることで、より安定した品質の製品をお届けできるようになりました。先々代社長・徳永誠一は、かまぼこ・さつま揚げの品質向上に並々ならぬ情熱を注ぎ、職人の技を磨くことはもちろん、素材選びや工程の改善にも一切の妥協を許しませんでした。
さらに誠一は、お客様の多様なニーズに応えるため、日夜新製品の開発に没頭し、徳永屋本店ならではの“オリジナル製品”を数多く生み出していきます。その代表例のひとつが、丸に十の字の紋をかたどった「島津揚げ」です。見た目の印象だけでなく、味わいにも独自性を持たせた、徳永屋本店のこだわりを象徴する一品として今に受け継がれています。
また誠一は、社業だけにとどまらず業界の発展にも尽力しました。鹿児島県蒲鉾組合連合会会長、全国蒲鉾組合連合会理事として、業界全体の品質向上や地位向上に貢献。こうした長年の功績が認められ、昭和40年5月に黄綬褒章、昭和45年4月には勲五等瑞宝章を受章し、さらに県民表彰の栄誉にも輝きました。まさに職人として、経営者として、そして業界を牽引する存在として歩み続けた人物だったといえます。
昭和56年2月、誠一社長のご逝去に伴い、徳永ミヱが新社長に就任します。先代社長・徳永ミヱは、誠一の遺志をしっかりと受け継ぎ、幾多の困難を乗り越えながら、17年間にわたり女性経営者として会社を力強く導いてきました。伝統と品質を守り抜きつつ、時代の変化にも柔軟に向き合い、徳永屋本店をさらに発展へと押し上げたその歩みは、今日の礎として確かに息づいています。

平成
平成3年9月、徳永屋本店は南栄工場の増築を実施し、最新設備を導入することで製造体制をさらに強化しました。衛生管理や品質の安定化はもちろん、生産効率の向上にもつながり、「いつでも変わらぬ美味しさ」をお届けするための土台がより確かなものとなりました。
そして平成6年8月には、5階建てとなる徳永屋本店の新築工事を行い、店舗は大きく生まれ変わります。店内は広々とした空間に整えられ、明るく清潔感のある雰囲気へ一新。より快適にお買い物を楽しんでいただける環境づくりを進めるとともに、徳永屋本店の“顔”としての存在感も一段と高まりました。
その後、先代社長・徳永ミヱの突然のご逝去を受け、平成9年8月には徳永進が代表取締役に就任します。歴代が大切に守り続けてきた伝統と信念をしっかりと受け継ぎながら、徳永屋本店の味と誇りを今につなぎ、今日まで歩みを重ねております。
現在は本店に加え、山形屋地階の食品売り場、エアポート山形屋をはじめ、各販売コーナーでも商品をご提供し、より多くのお客様に徳永屋本店の味をお届けしています。日々の食卓はもちろん、贈り物やお土産としても選ばれる存在として、地域に根差した展開を続けてまいりました。
また、徳永屋本店の歩みには、格式ある場面での献上という大きな栄誉も刻まれています。昭和37年5月、現在の天皇陛下が皇太子時代に御来鹿された折には御台覧品を献上。さらに昭和47年12月には昭和天皇にも御天覧品を献上いたしました。これらは、長年培ってきた品質と信頼が高く評価された証であり、徳永屋本店にとって大きな誇りとなっています。
加えて、昭和49年の農林水産大臣賞をはじめ、徳永屋本店の伝統と実績を物語る受賞歴は数多く、積み重ねてきた努力が確かな形として結実してきました。
徳永屋本店は、これらの歴史と評価に甘んじることなく、これからも一層の努力を重ねてまいります。皆様に「喜んでいただける」、そして「おいしい」と言っていただけるさつまあげ・かまぼこを作り続け、鹿児島の味として、変わらぬ真心とともにお届けしてまいります。